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練習って何?それは実験!

ピアノを習える!

そのレッスンの初日のことを、まるで昨日のことのように、思い出すことが出来る。私は時計をにらめっこして、何時間も時計を見ながら3時15分になるのを待っていた。レッスンは3時半から。歩いて行ける距離の先生のお宅まで、ものの5分。親の意向で6歳の6月から始めるという定めで、一年近くお預け状態だった。その日のために買ってもらった空のレッスンバックを握りしめて、母と歩いた。そして先生とお会いして、開口一番 ”鞄だけ持ってきたの?鉛筆は?消しゴムは?” 何でも過剰反応する私はその言葉で赤面した(自覚はある)。ピアノを習うのに、鉛筆と消しゴムが必要?!?! もう衝撃だった。聴音の練習と記譜の練習が読む練習と共に始まったのだ。そのおかげで、インプットとアウトプットの習慣がついた。

レッスンに親が同席したのはその初めの数回のみ。楽譜が読めるようになって、好きな曲が弾ければいい、それ以上何も望んでいない無知な親のもとで、自由に伸び伸びと好きな曲ばかりを弾き、勝手気ままにお月謝を無駄にした幼少期。

 

前置きが長くなってしまった。練習について。

一言で言って、練習には様々な種類がある。一種インプットの訓練も練習といえば練習になる。この時期生徒のオーデション、レコーディング、バーチャルリサイタルなどが続き、出来るだけ完成度を高めて本番に臨みたいという気持ちで、皆さん頑張ってきている。それはアウトプットがメインになるわけだ。ここで言う皆さんというのは、器用、不器用、注意不足、完璧主義、楽観主義、短気、物覚えが早い、遅い、運動神経がいい、反射神経の良し悪し、身体能力の違い、音感の良し悪し、リズム感の良し悪しなどなど、性格もおっとり、気性が激しい、もう千差万別、十人十色の生徒の皆さん。そしてその全てのミュージシャンが同様にして学ぶことは、インプット(出したい音をイメージできるまでの学習)とアウトプット(音を出す為の行為、または動向)の二つを自分の体で起こっている情報を処理して音楽を作る為の運動エネルギーに変換する一連の作業。私はそれを練習と呼んでいる。だから頭の中に出したい音がない間は、練習を始められない。

 

楽器に向かう時、自分が今何にフォーカスしているのか見定めて準備を進める事が大事。インプットなのかアウトプットなのか。

こんな風に音楽を奏でたいと思えた時点で、インプットは完了。

ここからアウトプット=練習ということになるが、すべては練習という名の実験。アインシュタインなど科学者にミュージシャンが多いと聞いた事がある方も多いと思うが、それは練習という行為が、こうなって欲しいと言う仮説を立てて、その音が出るまで試す科学者の実験行為に似ているから。間違った結果だと分かって何度も同じ実験を繰り返す人はいないと思う。色々な今までの成功と失敗のデータを使って、より多くの実験を短時間に行う事ができれば、やればやるほど効率の良い練習方法がわかってくる。昨日より今日、3回前より今がちょっとづつでも成長すれば、それが嬉しくてまた実験を繰り返す。

クリアなビジョンと、自分のやった行為をしっかり記憶できるようになれば、自己学習の進みも早い。自分の音を客観視できない場合は実験結果を正しく認識できていないということになるので、仮説した音と現在の音とのギャップを埋められない。今の時代レコーディングという機材があるから、客観性は無くてもある程度早いうちに鍛えられる。

 

ここで気がついてくだされば幸いである。楽譜が読めないから楽器ができないのではない。音痴だから楽器ができないということでもない。子供の頃やっていなかったから今出来ないということでもない。

ただ仮説を立てて実験を繰り返せばその実験が成功した時、楽器を演奏しているあなたがいる。