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『木を見て森を見ない』

楽譜を読んで演奏するということは、どういう事なんだろうか。

その二つを、楽譜を読む技術と、演奏する技術とに分けて考えてみよう。

 

まず楽譜を読む技術ということは、シンボルや記号をどれだけ音に変換(想像)できるかという技術になる。

 

楽譜には何が示されているのか

 

1)タイトル

 

2)テンポ(TEMPO)

これは、曲のスピードのこと。こんな雰囲気にしたい。。。と真似する時、ここからイメージするのが、手っ取り早い。

 

3)ト音記号、ヘ音記号、ハ音記号 ピアノは真ん中から右のエリア(高音部)をト音記号で表記する。左のエリア(低音部)はヘ音記号で。ハ音記号は弦楽器の、ビオラやチェロなど中低音を担当する楽器によく使われる。

 

4)拍子記号(TIME SIGNATURE)

これは、拍数とその拍の単位が示されている、曲の初めに4分の4とか、4分の3とか、8分の6などなど。曲のモーション(ウエーブのようなもの)が決まる。指揮棒は、この動きをテンポに合わせて、ミュージシャンにどんな風に演奏して欲しいか伝える。

 

5)調子記号(KEY SIGNATURE)

♯、♭が、規則正しく並べられているものが、楽曲でどの音(Key)を使うか示される。

曲の途中で示されるのが同じマーク(♯、♭、+ナチュラル)でも臨時記号と呼ばれ、調号で指定された音以外の時別な音を使用時に使う。

 

6)音符

音の長さと、高さが示される。

 

7)アーティキレーションを示す記号

スラー、スタッカート、テヌート、アクセント、ポルタメント、スピカート

同じ記号を使っても、国や時代によって、言葉のアクセントが変わるように、少しずつ差がある。

 

8)表現や表情を表すための注意書きの言葉(主にイタリア語)

ドルチェ、アッチェルランド、フェルマータ、リタルダンド、クレッシェンド、フォルテ、ピアノなどなど

 

9)演奏に必要な指番号、ペダル記号

 

 

楽譜は、言葉で言えば文字のようなもの。楽譜を見ながら演奏するというのは、朗読しているような感じ。楽譜を覚えて演奏する場合は、演技をしているような感じ。

 

または楽譜は地図にも例えられる。ナビゲーションのような感じ。どこに行くべきか順番に教えてくれる。

 

演奏する技術は、楽譜を読む技術と全く異なる。楽器によって、演奏に必要な体のパーツはことなるが、ただこの二つの技術を統合させると、楽譜を見てすぐ知らない曲を弾いたりする芸当ができるようになる。(初見演奏という)その結びつきを理解できれば、リハーサルや練習の時間を大幅に減らすことができる。

 

「子供の頃、習っていたのに今は全く覚えていない、、、」という話はよく聞く。小さい子が、読み書きをするより先に話せるようになる場合がほとんどだから、音が出せるけど、楽譜が読めないということはよくある。弾けるから楽しい、読めないから楽しく無い=練習しないとなったら、後で後悔する事になる。特に耳や目のメモリーが良くて、運動神経の良い子は、楽譜を読まなくても、読めなくても難しい曲を弾ける。これはお子供だけではなく、大人にも起こる。但し、これだと知らない曲は弾けない。見たことがある、聞いたことがある曲のみ可能になる。

 

自分の力で読んだ場合は、割と覚えているし、忘れても楽譜を見て思い出すことが出来る。物真似で覚えてしまって演奏することもできるが、それは筋肉のメモリーで、3日練習しないと、忘れてしまうことが多い。楽譜が読めた方がいいという理由は他にもある。特に解釈が色々分かれるクラシック音楽では、作曲家の意志を楽譜から読み取ろうとする作業が可能になる。音楽が芸術性にまで高められるときは、その表現の自由までたどり着いたときだと思う。

 

読む練習をする時、どこから始めるか、、、という質問も多いが、6)音符(音の高さと長さ)から入ることが多い。音の高さと長さのどちらを先に読んだ方がいいかという質問もあるけれど、慣れないうちは、長さと高さを別々に読んで、後でその二つを融合させるようにするといい。どちらの練習を集中してやるにせよ、読む練習をするなら、シンプルなリズムの方が理解しやすい。

ここで耳と目を繋げる訓練までしておけば、音楽をより楽しめるようになる。絶対音感、相対音感などという言葉を使うが、それは実際に聞こえている音に名前をつけること。これができると、音を聞いて、そこから楽譜に起こせるようになる。

 

楽譜に書かれているものが、どんな音がするか初めに知っておけば学習は何倍も楽になる。今の時代は音源を入手することが簡単だ。自分のお気に入りのパフォーマーを見つけて、耳コピ、目コピをしながら、先に全体像を掴み、さらに細かなところを倍速でゆっくり聞き取り、見取りして楽譜と照らし合わせながら、完成させる。

それが、『森を見てから、木を見る』方法。

 

そして、最近は楽譜もコンピューターが書いてくれる。音声入力の技術がある。

 

最終的に、それを確認するのが自分の耳。真似したい対象と、自分の演奏を聴き比べて、ギャップを埋めていく。これだけはコンピューターや人の手を借りることができない。録音というツールを使えば、自分の音をより客観的に聞くことができる。

 

しかし細かな事にこだわりすぎて、その曲の完成図を想像できない場合、またはその曲らしさの表現までたどり着けない場合、『木を見て森を見ていない』という現象が起こっている。木はあくまでも森の一部に過ぎないのだから、一旦遠くから眺めるのがいい。

 

ZOOMでのレッスンでも画面が小さいし、ピンポイントで身体の細やかな動きを説明することが可能だ。でも、全体像を説明することがとても難しい。今日も、小さな生徒があまりにも肩が上がって、手首も下がって、ピアノが弾きにくそうなので、画面をもう少し離してもらったら、座っている位置が近過ぎた。椅子の高さもちょっと高めにして、無事問題は解決した。夢中になって弾いていると、自分ではきっと気がつかない。ZOOM画面からではその角度や視野が限定されるので、ついそのチェックをするのを忘れてしまう。対面では、いつも一番先に気にかけることだというのに、、、。

正しく、ここでも『木を見て森を見られない』という現象が起こっている。

 

『木を見て森を見ない、、、』という現象にならないように、『森を知りながら、木を見る。』というように、学習したい。気が森を作っていうる事に間違いはないのだから。